今年4月に京友禅の老舗メーカー「千切屋治兵衞株式会社」(略称千治)の470周年記念展示会を覗いてみました。創業470年ということは1555年にできた会社です。
元々は初代西村与三右衛門貞喜(1533-1604)が妻の実家が織物業であった縁で、金襴袈裟法衣を生業としていました。千切屋の屋号は春日神社の若宮祭事の際に、興福寺衆徒の供進する千切花の台を毎年製作奉納していたと伝えられていることから、屋号を「千切屋」とし、千切台を上から見た四角形を3つ山型に配したものを紋としました。
分家・別家した千切屋一門にもこの紋が本家から与えられ、千切屋治兵衞も現在までこの紋を継承しています。
さて、今では数少なくなっている京友禅の作り手ですが、千治は今なお伝統的な京友禅を制作しています。豪華で雅やかな作品は勿論、品のある美しい友禅は千治の長きに渡って受け継がれた感性と技術の表れです。
中でも千治の作る手描き友禅は卓越した技術を持つ職人が18工程に及ぶ制作過程を経て完成します。
下絵
白生地に露草の花からとった青花液で、薄くあたりをとります。
あたりとは、大まかな図柄を生地に描いて、着物全体のバランスを保つようにアウトラインだけを描いていく作業のことです。それが終わると、今度は濃い青汁液で模様の本体部分など、細かい部分まで正確な模様を描いていきます。
ゴム糸目
下絵(図案)に沿ってゴム糊を置き、挿し友禅の際に染料が他ににじまないようにします。
柿渋を和紙に塗って固めた筒の中に入れ、絵に沿って絞りだして置いていきます。
伏糊
生地の地色を染める際に模様の部分に色が入るのを防ぐために必要な工程が伏糊です。
糸目糊で囲んだ後、挿し友禅で染めるところに糊をムラなく置いていき、その上に挽粉(ひきこ)を振り掛けます。この部分は引染をする際に模様の部分が染まらないように防染する働きをします。
引染
引染(ひきぞめ)は地染(じそめ)とも言われ、生地に染料液を刷毛で均一に、またはぼかして染めます。
引染は生地全体を染色することが多く、最も広い面積を染色するため、京手描友禅の重要な工程のひとつと言えます。
蒸し・水元
友禅染と引染された染料液を生地にしっかり定着させると共に、完全な発色を促すために蒸しの工程に入ります。蒸し枠に取り付けられたピンに生地耳を掛け、生地が重なった場合に色が移るのを防ぐために紙を間に挟みます。蒸し箱に入れ約100℃の蒸気で20~50分蒸します。
水元の工程は、生地に残った余分な染料、薬剤や糊を完全に洗い落とすために行います。生地に少しでも不純物が残っていれば、生地の質の低下につながるので、きれいに落ちるまで洗い流します。
手挿友禅
筆と刷毛を駆使して絵模様部分に染料などで染色していきます。
薄い色から濃い色へと順番に染めていきますが、筆や刷毛の使い方次第でぼかし模様も染められます。
全工程の中で最も色彩感覚や創造性が求められ、友禅師の個性が発揮される工程です。
蒸し 水洗 水元
染色液を定着させるため再度蒸しの工程をします。
蒸しが終わると生地に残った余分な染料、薬剤や糊を完全に落とすために大量の水で洗い流します。
金彩
染め上がった生地に金箔を接着加工する技術です。
京手描友禅と一体化し調和のとれた華やかさを具体化します。
手刺繍
絹糸・金糸・銀糸を使い、「京縫い」と呼ばれる技法でその仕上がりに美しい彩りと豪華さを与えます。
出来上がり
こんなにも大変な工程を経て漸く着物一着分の生地が出来上がります。しかもその工程はほとんどが職人による手作業です。
千切屋治兵衞さんは今もこうやって作っておられます。
この日本の伝統美と職人の技術を後世まで残せていけたら素晴らしいことです。
いつか千治の着物を着たいですね。